プロジェクト座談会

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プロジェクト座談会

従来のスペースで、
テスト効率を3倍に。
想定を超えた要望にどう応えたか。

半導体は大きく2つに分けられます。「考える半導体」と呼ばれるロジック半導体と「情報を記憶する」メモリ半導体の2つです。このうち、メモリ半導体は、近年、大容量化と処理スピードの高速化が進んでおり、製造プロセスではできるだけ短い時間で精度の高いテストが求められます。こうしたニーズに応えるため、アドバンテストでは、テスト効率を飛躍的に向上させる半導体試験装置T5230の開発に成功しました。また、この開発に際しては、スピード感を持って進めるため、「クロスファンクション開発」と呼ばれる手法を採用。開発の初期段階から、異なる職種の多くのメンバーが協力することで、より早く革新的な製品を生み出すことができました。そんな今回のプロジェクトについてご紹介します。
※2024年取材時の内容です

新製品T5230とは?

新製品
T5230とは?

メモリ半導体向け試験装置(以下メモリテスタ)。従来の機能に加えて、お客さまのニーズや使用環境に応じて、フレキシブルに構成を変えることが可能で、半導体製造の前工程でつくられるウェーハを一度に3枚テストすることができる。拡張性に優れ、試験時間の短縮と消費電力の低減や省スペースも実現した。

Project Flow &
Member

新製品開発フローと役割

本プロジェクトでは、「クロスファンクション開発」を導入し、開発の上流段階から複数のプロフェッショナルが関わり製品コンセプトや仕様検討を行った。

新製品開発フローと役割

01

いかに大量のデバイスを
同時に試験できるのか。
それはウェーハレベルでも。

新井:私たちアドバンテストは30年以上にわたって、メモリテスタを開発・提供してきました。いわば、メモリ半導体製造プロセスの革新をサポートし続けてきた企業とも言えます。メモリ半導体の進化は、大容量化と処理スピードの高速化の歴史でもありました。そのため、良否を判定するテストにおいても、いかに大量のデバイスを同時に試験するかが求められてきたのです。また、半導体製造の前工程であるウェーハレベルでテストを行うようになったのも、製造プロセスの進歩の一つ。これも、半導体の微細化が進み、より製造の難易度があがったことなどが背景に挙げられます。

加藤:そんなウェーハレベルのテストですが、今回は従来と同じスペースで3倍のウェーハを同時にテストできるようにするというのが、大きなイノベーションでした。

:とはいえ、たった1枚のウェーハにも、その上には数百個~数千個のチップが集積されています。その一つひとつに電気的な検査が必要です。それが3枚になるということは、メモリテスタのサイズも通常は3倍になるはずです。これは私たちにとって、一つの壁となりました。

奥谷:その壁を乗り越えるためには、試験装置の省スペース化が必要でした。T5230はテスタのサイズの小型化と軽量化に加え、省電力も実現させました。

新井:そうした難易度の高い挑戦に対して、今回「クロスファンクション開発」方式を採用しました。最初のうちは“初めて”だらけでしたが、今思うと開発の初期から専門性の異なるメンバーが集い知恵を出しあったことで、モノづくりが飛躍的に進んだと感じています。

02

この先、10年も
革新的と呼ばれるシステムを。

新井:この開発で、まず行ったのは「どのような試験装置であれば世の中に受け入れられそうか」、製品のコンセプトを考えることでした。マーケティングデータやお客さまと接する営業部門の情報をもとに、私たち開発部門だけでなく、ソフトウェアや生産、経理などあらゆる部門が一同に集まって、コンセプトや大まかな仕様を検討していきました。

奥谷:メモリテスタについては、多くのお客さまから、テスト効率を上げ、試験にかかるコストを抑えたいという共通するニーズをいただいていました。とりわけ今回の開発プロジェクトのきっかけとなったのは、フラッシュメモリをつくられているお客さまが、この製品コンセプトに興味を示してくださったことです。そこで、プロジェクトが本格始動しました。

新井:奥谷さんと話す中で見えてきたのは、単にテスト効率をあげるだけでなく、拡張性にも応えてほしいというお客さまのニーズでした。

奥谷:これまでの機能に加えて、試験できるウェーハの枚数も可能な限り増やしたい。さらに、測定するデバイスや使用環境に応じて臨機応変に活用したい、といった要望でした。

加藤:つまり、お客さまのニーズに合わせて複数のウェーハをテストできると同時に、使用環境に応じて、装置の構成を自由に変えられる構造が必要だということです。

奥谷:正直、かなりの難題という印象でしたが、私たちの製品は、お客さま先で10年以上ご利用いただきます。今あるニーズだけでなく、その先までを見越した拡張性を視野に入れることは重要だと考えました。そのため、この開発に取り組むメンバー全員のモチベーションは高かったと思います。

03

半分のスペースに
素子と回路を集積、
それは熱との闘い。

新井:1年ほどかけてコンセプトや仕様を固めた後、詳細設計の工程へと移りました。モジュールやソフトウェア、機械設計などを担当するメンバーにその仕様を伝えて、設計から評価検証まで行ってもらいました。

加藤:3枚のウェーハを同時に試験する機能を持ちながらも、工場でのテスタの設置面積を増やすことは許されません。

新井:従来よりも小さなスペースで、テスト効率をあげるにはどうしたらよいか。その打開策となったのが、試験装置の中に組み込まれているボードのサイズを大幅に見直したことでした。ボードを従来の約半分のサイズにし、その形状も変更しました。

加藤:約半分のサイズになったことで、設計の難易度がぐっとあがりました。これまでにない小さなスペースでどう回路や素子を集積するか、何度となく頭を抱えました。部品の間隔をつめて設計したとしても、正常に作動しない、ボードを量産できないでは意味がありません。生産のメンバーとも連携し、構造を模索し続けました。その結果、機能とつくりやすさを両立する構造が完成。出来上がった時は、大きな達成感がありました。

新井:高密度な設計を実現するには、熱との闘いもありました。そうした熱の問題をクリアするため、部材選定から見直して、熱解析による最適なレイアウト設計をしたことが、省電力にもつながっていきました。

:ソフトウェアの開発にあたっても、他部署との連携は欠かせませんでした。特に今回担当したDC試験は、ハードウェアの仕様に基づいて、ソフトウェアでどのような機能を実装するかから検討しなければなりませんでした。テスタの性能を引き出すためにどんな制御フローにすれば良いか、ハードウェア開発部門と密に話し合いながら、ユーザーが使いやすいインターフェースをつくりあげていきました。

新井:ソフトウェアはユーザー目線でつくるので、そこが難しいところですね。

:はい。ソフトウェア開発部門は、ハードのどの仕組みを使って、ユーザーが必要とする機能を実装するかを考えなければならないため、ハードウェアに関する知識も必要でした。自ら勉強するだけでなく、ハードウェア開発のメンバーに何度も質問しながら、理解を深めていきました。そして、評価検証の段階においても、ハードウェア開発はもちろん、システム&アプリケーションエンジニア(SE)などの部門にも協力してもらい、ようやく目標となる機能を実現することができたのです。

04

これからの、
メモリの生産現場の
常識を変えていく。

新井:コンセプトの検討から完成まで約3年をかけて完成したT5230ですが、振り返るとスケジュール面での苦労もありました。通常、仕様が固まった後の詳細設計から納品まで1年半~2年程かかるのですが、お客さまから「1年後に、このメモリテスタを使いたい」という声をいただいて…。

:スケジュールは皆さんが苦心したところですね。そんな中で、考えたのが「ステップ・リリース」という形での納品でした。お客さまが検証で必要な機能だけを搭載した試験装置を先行して提供し、お客さま先での検証期間に正式版を完成させて納品しました。最終的にはご要望通り、お客さまの生産計画にも寄与できる。こうした発想も、これからの時代に合っているのかもしれません。

奥谷:実際に、このT5230は、他のお客さまからも引き合いをいただいています。先日もお客さま先に、開発部門の責任者とシステム&アプリケーションエンジニア(SE)と訪問し、ご要望をヒアリングしてきました。お客さまのニーズや使用環境に合わせて、最適なソリューションを提案するため現在、社内で協議を進めています。

新井:今回のプロジェクトでは、100名以上もの方々に関わっていただきました。これだけ多くの方が誠心誠意、関わってくれた中で生まれた製品ですから、思い入れはかなりあります。

奥谷:その思いは、お客さまにも伝わっていると思います。営業活動を通して、感じているのは、この製品の拡張性に対する期待感。お客さまの将来のニーズに合わせて、フレキシブルに試験装置の構造を変えられる点は、激しく変化を続けるメモリ半導体業界を、大きく一歩前に進めるのではないかと思います。

05

このプロジェクトが、
メンバーに残したものとは?

新井:私は今回のプロジェクトで初めてリーダーを担いました。この機会を通して、エンジニアとしての考え方や姿勢にも大きな影響があったのですが、皆さんはいかがでしたか?

加藤:上司や先輩にサポートをいただいたものの、私は、始めから終わりまで初めて一人でボード設計を担ったため、毎日がドキドキの連続でした。機能を満たすことに懸命になり過ぎてしまい、途中で、「製造を容易にすることを意識した設計が必要」との指摘をいただいてハッとしたことがあります。このプロジェクトを通して、製造の容易さまで視野に入れた設計の大切さを学びました。

:私は今回、初めてハードウェアと連動するソフトウェア開発を担当しました。ハードウェアの機能や仕組みを深く理解した上で、ソフトウェア側で、どのような条件でどんな試験をするのかを決めなければなりませんでした。毎週のようにハードウェア開発部門のメンバーとワイガヤ※し、結果、評価段階で性能に不具合がないことを検証できたときには、かつてないほどの達成感を味わいました。
※職種や立場等に関わらず、ワイワイガヤガヤとざっくばらんに話すこと。

奥谷:私も新製品開発に携わったのは初めてでした。営業という立場なので、仕様策定や製品開発に直接携わることはできません。ですが、お客さまの生の声やご要望を適切に開発に届け、製品仕様に反映してもらうには、営業の責任はとても大きいと感じました。現在、多くのお客さまを担当しているのですが、半導体試験装置市場で業界トップのアドバンテストに対するお客さまの信頼は高く、将来の製品開発に関する情報を聞かせていただくこともあります。そうした信頼に応えるため、これからもお客さまの声を社内に届けていきたいです。

新井:今回のプロジェクトは、アドバンテストにとっても新世代と呼べるような試験装置が開発できただけでなく、メンバー一人ひとりの成長につながりました。この経験を糧にこれからも、新しい挑戦を続けていきたいと思います。